小林 範之(こばやし のりゆき)


マンパワーグループ株式会社に勤務。同社が官公庁より受託している中小企業支援プロジェクトを推進。また、社外活動を通じて、ひとりひとりの自己実現を可能にする職場のあり方を模索する活動も行う。


余儀なくされた2度の失業

現在のお仕事内容について教えてください。


中小企業の働き方改革支援プロジェクトの事業責任者を務めています。課題を抱える中小企業をバックアップし、プロジェクトを成功に導くのが私の仕事です。


労働生産性や労働環境に関わる問題は、助成金だけではなかなか解決につながらないのが現状です。そこで、公的な支援を事業化して、企業には実質無償でサービスを提供することで、より直接的に課題解決が図れるというわけです。


まず始めに支援先企業を公募し、実際に訪問して課題の抽出を行います。経営者へのヒアリングや従業員アンケートなどにより、どこに改善余地があるのかを考え、ゴールを設定します。その上で、中小企業診断士や社会保険労務士といった専門家を一定期間派遣し、人事評価制度の運用を見直したり、就業規則を新しくしたりといった支援を行います。支援期間中や支援終了時、自治体など対して報告書を提出することも事務局の重要な仕事です。

小林さんのこれまでのキャリアについて伺えますか?


我ながら波乱のキャリアを歩んでいます。


大学卒業後は、腕時計・宝飾の商社に就職。百貨店に勤務した後、大阪と東京で営業やマーケティングを担当しました。初めて転職したのは34のときです。スイスに本社のある世界最大の時計メーカーに移りましたが、3年ほどたったときにリーマン・ショックが発生。事業所閉鎖に伴い、私は突然職を失ってしまったんです。


その後、ドイツに本社があるキッチン用品のメーカーに再就職し、一部門を任せられるまでになりました。しかし、経営方針が変わり、地方転勤を言い渡されたタイミングで自らの意思で退職。再び職を探すことになりました。しかし、これがなかなか決まらない。これまでの経験を活かせる外資系メーカーを中心に受けましたが、100社以上落ちてしまって...。そのときは、短期派遣で食いつなぐようなことをやっていました。


社会人大学院がターニングポイントに


2度の失業を経験されたんですね...。そこからどのような経緯で現在の仕事に至ったのでしょうか?


「これからどうしよう」と途方に暮れていたとき、前職でお世話になった取引先の社長からあるアドバイスをいただきました。営業やマーケティングを中心に探していると私が伝えたところ、「このタイミングで、体系的にマーケティングを学んでみてはどうか」と。この言葉が私のターニングポイントとなりました。


思えば私は、営業やマーケティングを専門にキャリアを積んできましたが、それについて体系的に学んだことは確かにありませんでした。そこで、短期派遣の仕事を続けながら、社会人大学院に通うことにしたんです。


社会人大学院に通ったメリットは計り知れませんでした。15年間の社会人経験のベースがある状態でマーケティングの理論に改めて触れることで、とても深い学びが得られました。しかし、一番の収穫は、そこで出会った仲間です。


当時は、なかなか仕事が見つからない現状から「自分は社会に適合できない人間なのではないか」と不安になることもありました。しかし、社会人大学院で仲間と議論をする中で、「私はまだまだやれる」と次第に自信を取り戻すことができたんです。社会人大学院でできた交友関係は今でももちろん続いています。

そうこうしているうちに、短期で働いていたプロジェクトの成果が評価され、マンパワーグループで正社員として登用されることになりました。そして、その次のプロジェクトに移るときに、マーケティングや経営の知見を活かせる中小企業支援プロジェクトにアサインされることになったわけです。


私のキャリアから言えるアドバイスは「諦めないことが大事だ」ということに尽きます。複数回職を失い、40代にして2年間も正社員の職がなくても、今、事業を管理する立場で復活することができています。どんなに苦しい状況でも諦めず、再起のチャンスを待つこと。目の前の仕事にきちんと取り組んでいれば、いつかきっとチャンスは訪れます。

どのような思いで日々のお仕事に取り組んでいらっしゃるのでしょうか?


支援先の中小企業で働く従業員の方々に対する思いが一番強いです。会社に行きたくなくて、日曜日の夜が憂鬱な人、厳しい労働環境から逃れたくても逃れられずにいる人、仕事に対して正当な評価を得られていない人など、会社組織で働く従業員の苦しみは尽きません。彼らがやりたい仕事をいきいきとやれるような環境を整えたいと考えています。プロジェクトの中でのひとつひとつの積み重ねが自分のやりがいです。


「労働環境や働き方の問題はどうすれば改善されていくのか」これは私が仕事を通じて追求したいテーマです。たとえば、問題を引き起こしている原因の一つに、組織の階層構造があります。そんな問題意識から、最近は社外活動として勉強会などに参加し、理想の組織のあり方を模索しています。


また、今後の社会のあり方を考える上で「共感」が重要なキーワードになってくると考えています。利益重視、競争原理といったような従来の資本主義的な組織のあり方は、共生、共感のパラダイムに取って代わられます。あるビジョンに対して共感したメンバーで構成される組織がこれからは台頭すると思うんです。


中小企業の経営者は、絵に描いた餅のような経営理念ではなく、共感を生み出すことができる真のビジョンを掲げることが一層求められると考えています。そんなお手伝いをさせてもらうために、これからも担当させてもらっている企業の経営者や従業員の方々に寄り添っていきたいです。