伊井 武(いい たけし)


大手航空会社勤務。原動機整備部に所属し、航空機エンジンの整備士を務める。


世界に触れたデンマーク留学

現在のお仕事内容について教えてください。


大学院卒業後、新卒で航空会社に入社し、以来2年間、航空機エンジンの整備をしています。羽田空港に隣接する工場で、機体から取り外された大きなエンジンの異常がないかを点検し、分解・組み立て作業を行なっています。


飛行中、航空機用エンジンには熱や応力といった大きな負荷がかかります。乗員乗客の安全を守るためには、亀裂が入っていないか、故障がないかを定期的に点検し、必要に応じて部品を交換することが不可欠です。1機あたりの整備頻度は数ヶ月に1度のペースですが、保有機体が多いため、整備すべきエンジンが日々尽きることはありません。工場では常時、4~8人くらいのチームで作業しています。


パイロットが機種ごとに操縦免許を取得する必要があるのと同様に、エンジンの整備も種類ごとに資格がわかれています。経験を積むことでさまざまな種類の整備資格を取得し、仕事の幅を広げていくことが求められています。

今後の一般的なキャリアパスとしては、整備の道を極めるか、整備部の事務職に異動するかの2パターンがあります。事務職は、整備体制の管理やエンジンメーカーとの折衝、部品の買い付け等を担っています。


多くの人命に関わる、責任重大な任務ですね。その仕事を選んだ経緯について教えてください。


航空会社に就職したのは、大学時代の留学経験が大きなきっかけです。文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN」という奨学金制度を使って、交換留学生としてデンマーク工科大学で半年間学びました。


留学に行こうと決めたのは、自分の視野を広げたいと思ったからです。高校まで野球部、大学ではラクロス部と、それまでずっと部活一筋の学生生活を送ってきました。とても充実した毎日でしたが、一方で部活以外の世界に触れてみたいという気持ちもずっと抱いていたんです。多様な国の人と共に学べる留学は、そんな僕にとってこれ以上ないほど魅力的な機会でした。


留学生活は、思い描いていた通りの刺激に溢れた毎日でした。大学院生として、もちろん研究にも熱心に取り組みましたが、特に楽しかった思い出として残っているのは、各国の留学生とパーティで盛り上がったことや寮で一緒に料理を作ったこと。留学生活終盤には、友人に声をかけて、互いの出身国の理解を深めるイベントを企画しました。当日はドイツ、フランス、インド、中国、韓国、シンガポール等、多くの留学生が集まってくれて、それぞれの国について発表し合いました。まるで世界の縮図のような和気あいあいとした場でしたね。


「世界の人たちをつなぐことに貢献したい。」留学を通じて芽生えた想いです。その手段はいくつか考えられますが、僕が注目したのは「人の移動」でした。僕が世界各国の人と知り合うことができたのは、何より、人が世界中の行きたいところへ行ける社会基盤があってこそ。それを支えたいという思いで、航空業界を志望しました。

誰にでもできることを誰よりもしっかりやる

整備士として、日々意識していることはありますか?


大前提として、些細なミスが文字通り命取りとなる仕事ですから、1つひとつの作業を正確に行うのは何よりも大切なことです。


その上で僕は、現場の緊張感を少しでもほぐすことを意識しています。仕事柄、現場は常に一定の緊張感に包まれています。適度な緊張感は必要ですが、行き過ぎて空気が張り詰めてしまうと、プレッシャーに押されてかえって生産性が落ちたり、ミスが発生したりということが起きてしまいます。重圧や焦りを感じている後輩に常に笑顔で接する、ちょっとした冗談で笑いをとる、困っている同僚に気を配る、始業前に早く来て作業内容を事前に把握しておき、心に余裕を持つようにする等...。小さなことかもしれませんが、少しでもみんなが作業しやすい環境を作るために、自分にできることをやっています。誰にでもできるようなことを、誰よりもしっかりやるのが僕の持ち味だと思っています。


周りの人への気配りが自然にできるのは、彼らの存在が僕にとって非常に大切だからでしょうか。思えば、大学時代に打ち込んだラクロスも研究室も、周りに魅力的な人がいたからこそ頑張ることができたように思います。「この人たちと一緒にやりたい」と信じられることが僕にとって大きなモチベーションで、それは今の仕事でも変わっていません。

「世界の人たちをつなぐ」ために、今後どのような挑戦をしていきたいですか?


来年で入社3年目。今後のことは絶賛模索中です。最近感じているのは、世界の人たちをつなぐ手段としての「移動」の意味合いが変わってきているということです。


従来は、人と人が直接会うには物理的な移動が不可欠でしたが、バーチャルリアリティやテレエクジスタンス技術によって、いながらにして限りなく直接会うのに近い体験が可能になっています。今後、物理的な移動の重要性は下がっていくかもしれません。


一方で、留学先で友達と互いの国の料理を振る舞い合った楽しい瞬間は、やはり物理的な移動なくしては実現しないものです。今後しばらくは、技術で代替されることもないでしょう。


今はそんなことを考えながら、進みたい道を考えている状況です。世界の人たちをつなぐために、僕が選択する手段は何なのか。3年後には、それを明確に語れて、着実に歩んでいるようにしたいですね。