中村 隼人(なかむら はやと)


臨床心理士。都内の小中学校の特別支援学級に通う生徒のカウンセリングやカリキュラム作成等に従事。また、個人の活動として、新宿や渋谷をたむろする不登校児や中退者、卒業後行き場のない若者への声掛け、セーフティネット構築を実施。生きづらさを抱えた人へのインタビュー冊子を作る活動も行う。


私自身もかつて不登校だった

現在のお仕事内容について教えてください。


心理カウンセラーとして、都内の小中学校の特別支援学級の生徒を診る仕事をしています。東京都は政策として、都内すべての公立学校に特別支援学級を設置し、300人の臨床心理士を派遣しています。私はその1人です。週に3回程度、担当する学校に出向き、発達障害を抱える生徒との対話やカリキュラム作成を通じた自立支援活動を行うほか、教職員・保護者向けのセミナーを主催し、発達障害に対する理解を促す活動も行っています。


またそれ以外にも、不登校児への支援を個人で行っています。学校のカウンセラーをしていてもどかしく感じるのは、まったく学校に来ない不登校児にはそもそも支援の手を差し伸べることができないという点です。彼らは卒業後、暴力団等の悪い道に進んでしまうこともあります。特別支援学級の生徒以上に深刻で、惜しみない支援が必要なのは、学校に来てすらいない子たちなのではないか。そんな想いから、新宿・渋谷のたまり場を巡回し、学校からはアプローチできない不登校の子どもたちに声を掛け、相談に乗る活動をしています。


彼らは、学校や大人を毛嫌いし、不登校の友達同士でたむろしています。無縁社会と言われますが、まさに彼らは社会から孤立してしまっている状態です。だからこそ、待っていてはダメで、こちらからアプローチしていかなければ彼らを救い出すことはできません。


「何か困ったことがあったら連絡してね」と名刺を渡しておくと、ときどき連絡が来ます。彼らの話に真摯に耳を傾けていると、信頼してもらえたのか、次第に紹介を通じて他の子からも連絡が来るようになりました。そんな草の根活動をコツコツ続けることで、学校や行政にはできない支援を提供できればと思っています。

学校内外から支援を行っているんですね。心理カウンセラーになろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?


私自身、高校時代に人間関係で苦しみ、不登校の時期がありました。それが現在の仕事に通ずる原体験です。


不登校になったとき、自分の話に耳を傾けてくれる人がいなかったことが何よりも辛かったんです。当時は学校にカウンセラーなんていなくて、担任の先生も聞く耳持たず。大人不信になりました。その経験から、大学院で心理学を学び、臨床心理士を志しました。大学時代には、児童館で子どもたちと対話したり、中学校や高校の心理カウンセラーを手伝ったりしていました。

希望を持ち、自分で生きていく力を身につけてほしい


ご自身も辛い経験をされているからこそ、いま、学校の生徒や生きづらさを抱える若者に対してどのような姿勢で向き合うことを心がけていますか?


学校の生徒であれば、とにかく彼らの話を聞いてあげる。それに尽きます。不登校だった当時の私に、たった1人でも話を聞いてくれる大人がいたら、全然違っただろうなと思うんです。


ただ頷いてあげるだけで、生徒は救われた気持ちになります。彼らは、別にアドバイスを求めているわけではありません。むしろ実際は、心の中では解決策に薄々勘付いているもの。それにも関わらず、こちらから解決策を提示してしまっては、彼らの自主性を妨げてしまいます。傾聴に徹し、共感することで、そのうち生徒の口から解決策がぽろっと出てくる。


こうした活動の目指すところは、生徒の自立です。残念ながら、30代や40代になっても引きこもりから抜け出せないケースもありますが、親の保護を一生受け続けることはできません。だからこそ生徒には、希望を持ち、自分で生きていく力を身につけてほしい。前を向き、強くあってほしいんです。そんな想いで、日々彼らと向き合っています。


また、生徒本人だけではなく、保護者のケアも欠かすことはできません。我が子が発達障害だと診断された保護者は、やはり辛いものです。特別支援学級への編入が決まった際は、生徒本人と保護者、担任の先生を含めた4者面談を開き、お子様が特別支援学級に入るべき理由を丁寧に説明することで、納得していただきます。ご自宅に訪問し、根気よく説得することも珍しくありません。

特にやりがいを感じる瞬間を教えてください。

学校での支援においては、特別支援学級の生徒がきちんと授業を受けられるようになって、休み時間中に他のクラスメイトと笑いあっている姿を見るのが一番のやりがいです。たまに卒業生が近況報告をLINEでくれることがあります。元気にやっているという報告を見ると報われますね。


学校外での支援においては、私と出会って、話をすることで、前向きになっていく姿を見ると、この仕事をやって良かったなと感じます。

最後に、今後取り組んでいきたいことはありますか?


今後も引き続き、不登校児への支援を強化していきたいです。学校外での活動として、最近、生きづらさを抱えている若者たちにインタビューして、彼らの声を集めた冊子を作っています。表に出ない彼らの声を広く知ってもらうためです。最終的に目指すのは、社会とのつながりが断絶してしまっている彼らの居場所づくり。安心できる環境や何かあったときに信頼できる大人にすぐに相談できる体制を築くことで、彼らにとってのセーフティネットでありたいと考えています。