松村 和樹(まつむら かずき)


株式会社LITALICOにて、お子様1人ひとりの特性や成長に合わせた指導を行う学習塾「LITALICOジュニア」の教室長として教室経営や新規拠点立ち上げを担当。また、熱意を持った学校の先生向けの研修事業を行う一般社団法人Teacher’s Labを学生時代に共同設立し、事務局長を務める。


学校や家庭での苦労で教育に目覚める

現在のお仕事内容について教えてください。


株式会社LITALICOで、弊社が経営する学習塾「LITALICOジュニア」の教室長を務めています。一般的な受験指導塾と異なり、多様なニーズのあるお子様を対象にオーダーメイドの教育を行う塾です。「勉強はよくできるけれどじっとしていることができない」「感情のコントロールが苦手」「読むことは嫌いでも暗記は得意」など、さまざまな特性を持つお子様1人ひとりに合わせた教育を提供しています。私は教室長という立場で、担当する教室の経営や保護者面談等を行うほか、新しい教室の立ち上げ業務にも携わっています。


さらに、同じ教育分野で取り組んでいることがもう1つ。大学卒業前に代表理事の宮田と共に自ら設立した一般社団法人Teacher’s Labで、事務局長を務めています。1つ目の仕事がお子様や保護者の方を含めたご家庭に向けた取り組みである一方、こちらは学校の先生に向けた取り組みです。意欲的な先生を対象にした学びの場を提供する事業を行っています。


学校の先生の過労やいじめ問題が世間では話題になっていますが、熱意があって生徒思いな先生はたくさんいます。一方、学校内で何か事を起こそうと思っても、決められた枠組みや慣習が足かせとなり、自由なチャレンジをくすぶらせてしまっていることが多いのも実情。そこでTeacher’s Labでは、意欲的な先生を学校の外に集め、先生1人ひとりがやりたいことを発信し、必要なリソースを獲得し、プロジェクトを始めるまでをトータルサポートしています。また『先生と共につくる先生の学校』というコンセプトで、学校の先生が先生に対しての研修を企画し、実施することで学ぶ教員研修のプラットフォームも運営しています。学校内ではともすれば孤立してしまうことすらある意欲的な先生同士のコネクションを作ることで、先生主体で学校を活性化させようという試みです。

一貫して教育という軸で活動されているんですね。 教育に関心を抱いたきっかけから現在の活動に至るまでの経緯を教えてください。


私自身が子どもの頃、学校や家庭で苦労した経験を通じて、子どもが置かれる環境に対して問題意識を深めていきました。


小学5〜6年生のときに相性の悪い先生が担任になってしまって。先生が嫌で嫌で、夢遊病のような症状を起こしてしまったり、学校に行きたくなくなったりする時期がありました。子どもにとって、先生という存在がいかに大きいかを身を以て体感する最初のきっかけでした。


中高でも、先生への問題意識が深まる出来事がありました。私のクラスを担当した社会科の先生は、ほとんど黒板に向かって授業をするかのように、ずっと私たちに背を向けている方でした。案の定クラスは崩壊。社会科の時間は無法地帯と化しました。一方で、国語の時間は違いました。国語の先生の授業は本当に面白くて、私含めクラス全員が目を輝かせながら授業に聞き入るんです。先生次第でこうも変わるものかと、改めて実感しましたね。


また、家庭でも問題を抱えていました。私の母は感情のコントロールが得意ではなく、幼い頃の私に対して衝動的に当たることが多かったんです。当時の私もそれに真っ向からぶつかって接していたため、親との喧嘩は絶えませんでした。

そんな子ども時代を過ごした後に大学に入学すると、将来の進路について真剣に語り合える先輩や仲間に恵まれ、教育に対する問題意識は確固たるものになります。教職課程に進んで教員免許を取得したり、所属していた学生団体で教育系のプロジェクトを立ち上げたり、教育という軸で活動の幅を広げました。


大学4年で、NPO法人ETICが主宰する「MAKERS UNIVERSITY」という次世代イノベーター育成プログラムの1期生として、現在の団体のルーツとなるプロジェクトを始めました。日本の教育現場の問題点はずいぶんと前から指摘されてきましたが、当事者の学校も、監督する教育委員会や文科省といった行政も、指針を示してはいるものの浸透させられていなかったり、現場の先生の混乱を招いたりしている。そこで、学校でも行政でもない、第三の立場から意欲的な先生のコミュニティを作って、現場の問題に対峙していこう。そんなコンセプトで団体を創設し、早2年になります。教育系の社会起業家の先輩である「Teach For Japan」設立者の松田悠介さんを始め、さまざまな方にご支援いただきながら、代表理事の宮田や共にTeacher’s School事業を立ち上げた館野先生と共にここまで来ることができました。

人は皆生きているだけで価値がある

ご自身の団体での活動で特にやりがいを感じるのはどんな瞬間でしょうか?


やはり先生方からの成果報告が一番のモチベーションです。「勤務先の学校で新しい試みを実現することができた」「必ずしも大成功とはいかなかったが、こんな学びがあった」等、イキイキとした表情で語る先生から、私もパワーをもらっています。


私自身は先生でもなければ、教育問題の解決策を知っているわけでもありません。意欲ある先生方の伴走者として、彼/彼女らの挑戦を後押しするための人・物・情報・環境を提供したいという想いで活動を続けています。

活動を通じて実現したい理想の世界について教えてください。


究極の志は、「人は皆生きているだけで価値がある」という世界観を実現することです。能力があるからでも何かに長けているからでもなく、1人ひとりの個性がありのままに受容される。そんな世界を理想としています。


特に子どもは、勉強ができることや授業中にじっとしていられること、団体行動ができること等が評価され、それができない子は、周りから「ダメな子」というレッテルを貼られがちです。しかも、子どもにとって大きな存在である親や先生がそのような評価で接することは、子どもの自己肯定感に甚大な悪影響をもたらします。そもそも、人間1人ひとりに特性があって、そこに良し悪しの基準はないはず。何より親や先生がそのことを認識して子どもに接することが大切です。親や先生も子どもの個性を尊重し、特性に合わせた関わりを学ぶことが当たり前な世の中にしていきたいですね。


教育という枠を越えた普遍的な理想像を目指していらっしゃるんですね。今後2〜3年のスパンでは、どのようなことに挑戦していきたいですか?


Teacher’s Labは、お陰様で意欲的な先生が集うコミュニティに成長しました。今は首都圏を中心とした活動に限られていますが、今後は地方展開を積極的にしていきたいです。また、先生を対象にするだけではなく、自治体の教育委員会にも活動領域を広げたいです。ちょうど今、ある自治体の教育長の方とのご縁を頂いたので、そこを起点に行政との連携も進めていきたいです。


また、LITALICOでは現在、保護者の方がお子様の特性に合わせて関われるようになることを狙いとする「ペアレント・トレーニング」というサービスも展開しています。保護者自身が行動変容をしてお子様の個性を伸ばす関わりができる事例を増やしたいです。さらに、まだ手の届いていない地域や、より困難度の高い少年院にいる方等に対してのアプローチもしていきたいと思っています。


一方、逆説的ですが、弊団体のような場がなくても、意欲的な先生が学校内でさまざまなチャレンジができる環境になることが、本当は理想なんです。良い意味で、弊団体が必要なくなる社会を目指して今できることを積み上げていきたいですね。