笠田 小夏(かさだ こなつ)


1994年生まれ。公共空間のアートデザインを手掛ける企業でアートコーディネーターを務める。


思い切って行ったヘルシンキデザインウィーク

アートコーディネーターとはどのようなお仕事なんでしょうか?


建築物が新しく建てられる際に、空間の一部としてアートをデザインする仕事です。一流ホテルのロビーや病院の総合受付で、絵画やオブジェが飾られているのを見たことはありませんか? あのように建築物の趣旨に合うようなアートを企画し、作家に制作を依頼し、施工までを一気通貫で行うのがアートコーディネーターの業務です。クライアントはホテルや病院以外にも、介護施設や一般企業のオフィスなど多岐にわたります。


案件を受注できたら、クライアントの希望予算に合うようにコンセプトを作り、イメージ画像を提案して中身をすり合わせます。建築業界のようにコンペ形式になることも珍しくありません。弊社を選んでいただけたら、納品に向けてプロジェクトを進めます。予算次第で、アート作家に新規で作品制作を依頼することもあれば、既存の作品を使うこともあります。作品が調達できたら、いよいよ納品です。納品当日には、私自身も現場に出向いて、設計担当と細かい位置取りを最終調整します。イメージ画像ではしっくり来ていても、実際に置いてみるともう少し上がいいな、とか微調整が必要なことが少なくないんですよ。


大きなホテルの案件などを除いて、基本的に自分1人で1プロジェクトを担当します。企画内容から自分で考えて進めることができ、クライアントからのお褒めの言葉もお叱りも自分が受けることになるので、とてもやりがいがありますね。


アートに関わる仕事がしたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか。


もともとアートやデザインには関心があったんですが、学生時代のフィンランド旅行をきっかけに想いを強くしました。大学4年の夏休みに、ヘルシンキデザインウィークの開催期間に合わせてフィンランドに行きました。デザインウィークとは、ヘルシンキの街全体を巻き込んで行われる北欧最大のデザインフェスティバルです。


本当に感動しました......。遊び心のあるアートやデザインがいたるところにあり、街全体が自由で明るい雰囲気に包まれていました。公園に銅像が置かれていることは日本でもありますが、たいていは厳かに飾られているだけですよね。ヘルシンキの銅像は、とにかくド派手にデコレーションされているんですよ! 他にも、道のど真ん中にエアードームがどかーんと置いてあって、普通に考えて邪魔なのに、道行く人はすごく楽しそう。「こんなのありか!」と思いつつも、「空間デザインってこんなに人に影響を与えられるんだ」と実感しましたね。


帰国後、アートやデザインに関わる活動がしたいと思って、地元名古屋のNPOが準備していたデザインツアーの運営メンバーになりました。実は、名古屋市はユネスコの「クリエイティブ・デザインシティ」に認定されていて、デザイン会議の誘致や展覧会の開催、若手デザイナーの育成といった文化振興事業を積極的に行っています。デザインツアーもそうした事業の一環で、ツアー終了後は、運営に関わったことでつながりができた名古屋市役所の文化振興室でインターンを始めました。


インターンでは、デザイン都市としての名古屋を盛り上げるために、いろいろなアート・デザイン関連イベントを企画しましたが、当初は自分がアートやデザインを仕事にするイメージを持てませんでした。市の取り組みは公共事業であって、ビジネスではありません。でも、現実問題や継続性を考えたときに、私はビジネスとして成り立つ仕事がしたいと思ったんです。


「作り手以外の立場で、アートやデザインにビジネスとして関わる方法なんてあるだろうか。」就活を控えた頃だったので、真剣に考えました。そこで、インターン先でお世話になっていた方に相談してみると「全然あるよ!」と。いただいたアドバイスの通りに調べてみると、なるほど確かにありました。そこから今の会社にたどり着くのに時間はかかりませんでした。

アートで、人のつながりが生まれる公共空間を

アートを通じて、見る人にどんな価値を届けたいですか?


見た人に「ちょっと笑えるな」とか「癒やされるな」と思ってもらえる公共アートを作りたいと思っています。そこに人の手で作られたアートがあることで、場にぬくもりが生まれて、空間の雰囲気が良くなると思うんです。それによって、人と人のつながりが自然に生まれる場を届けたいですね。


公共アートの難しさは、不特定多数の目に触れるところにあります。当然いろんな感想が出てくるわけで、ある人にとっては素晴らしいアートでも、別の人にとっては不快なものであるかもしれない。安全性や耐久性も求められます。そのような困難に日々直面しながらも、クライアントに満足いただけて自分も納得できる作品を納品できるように、こだわりを持って日々の業務に取り組んでいます。感性を磨き続けなければならないので、いろんな展覧会に足を運び、いいものを実際に見ることでセンスを養っていますね。


今までで一番嬉しかったのは、他社の候補の中から私がプレゼンした企画を選んでいただいたクライアントに「君のやる気を買ったんだよ」と言っていただいたことですね。この仕事には、終わりというものがありません。自分の努力次第で、どこまでも高みを目指すことができます。やる気だけではなく、専門知識をもっと身につけて「あなたにすべてお任せします」と言っていただけるようなコーディネーターを今後も目指したいと思っています。