松本 一輝(まつもと かずき)


熊本県で生徒数70名ほどの学習塾『ジースクール』を運営。大学時代にアルバイト講師として勤めた後、新卒で塾長に就任して2年目の23歳。「試験に合格」ではなく「社会で活躍」をコンセプトに、現在は生徒への投資事業設立に取り組む。


「じゃあ、塾長やってよ」という一言で道が決まった

現在のお仕事内容について教えてください。


熊本にある学習塾『ジースクール』の塾長を務めています。市内に5教室を展開し、70名ほどの生徒を抱える当塾の運営全般が僕の仕事です。カリキュラム作成や保護者面談、アルバイト講師のマネジメントのほか、教壇にも立ちます。


当塾は小学生から高校生までの受験指導も行っていますが、僕が塾長に就任してから注力しているのは、小学生向けのプログラミング教室やロボット教室です。教育のゴールは試験に合格させることではなく、社会で活躍する人材を育成することのほうが重要です。そのために、問題解決力を養えるプログラミングやロボット教育重視に舵を切りました。

松本さんは大学卒業後、いきなり塾長に就任されていますね。どのような経緯があったのでしょうか?


当塾には、学生時代からアルバイトとして働いていました。先にバイトしていた先輩に誘われたことがきっかけです。


もともと教えることは好きで、塾で働く前も小学生向けサッカー教室でアルバイトしていたくらいです。でも当時は、まさか自分が数年後にその塾の塾長になるなんて、想像すらしていませんでしたね。


講師として教壇に立ってみると、想像以上にやりがいを感じました。生徒の成長をサポートできることは喜びでしたし、何より楽しかった。


上司にも恵まれました。塾の経営体制の刷新により就任された新しいオーナーは「この人についていきたい」と素直に思えるような素敵な方でした。ますますアルバイトにのめり込む中で、最初は単なるバイト先だった塾が、僕にとってより大きな意味を持つようになってきたんです。


「大学卒業後もここで働きたい」とオーナーに伝えたところ、ある日突然「じゃあ、塾長やってよ」と。オーナーは複数の会社を経営していて忙しく、塾の現場のことにまで目を行き届かせることは確かに難しい状況ではありました。でも僕は、社会人経験すらありません。ほとんど決定事項のような状態ではありましたが「一晩考えさせてください」と伝えました。自分に塾長なんて務まるのか自信を持てず、覚悟を決める時間がほしかったんです。


一度持ち帰ったものの、家で改めて考えてみると「これは絶対に乗るべきチャンスだ」と思えてなりませんでした。もちろん不安はゼロではありませんでしたが、「やってみたい」という自分の気持ちに従うことにしたんです。


塾長を務める覚悟が決まったのは、僕の中に醸成されつつあった教育に対する問題意識を追求したいと思ったからでもあります。


当たり前ですが塾に期待されることは成績アップです。もちろんそれは大事なことですが、テストの点を上げたり志望校に合格したりといったこと自体が目的になっていやしないかと、次第に疑問を抱くようになりました。というのも、生徒に「将来何したい?」と聞くと「会社員 “で” いいや」と返ってくるんです。進路選択や将来像のイメージはなく、最初から人生に多くを期待していないというか...。


かくいう僕自身も、塾でアルバイトを始める前は卒業後にやりたいことなんて特になく、この歳にして先が見えてしまうような虚しさを感じていました。僕だけではなく、周りの友達もそう。そんな経験からも、せっかく自分が塾長をやるなら、単に勉強を教えるだけではなく、将来に希望を持ち、社会で活躍できる生徒を育てたいと考えたんです。

最終的には教え子に囲まれて死にたい

塾長になって現在2年目かと思いますが、1年間を振り返ってみていかがですか?


右も左もわからない状態からのスタートでしたが、優秀なアルバイト講師にも支えられ、お陰様で生徒数を増やすことができています。プログラミングやロボット教育への方針転換も保護者の方に受け入れていただくことができました。





「これぞ僕の描く理想の塾だ!」と感じた印象に残っている出来事があります。プログラミング教室で技術を身につけた生徒が、当塾のPR用LED看板を作ってみたいと言ってくれたんです。材料費などを塾でサポートし、高専出身のアルバイト講師の力も借りながら完成したのが、写真の看板。


いい出来栄えですよね。これを近隣の会社の経営者にたまたまお見せしたら「ほしい!買いたい!」とおっしゃったんです。中学生が自分で作ったものが、実際に売れる。そんな経験、なかなかできるものではありません。規模は小さくても、それは立派なビジネス経験であって、当塾は生徒にとって投資会社のような存在になったと言えます。


そんなふうに、生徒の「やってみたい!」という気持ちを金銭面を含め多面的に応援できる塾でありたいと、そのとき強く思いました。実践的な成功体験を通じて、社会で活躍できる生徒を育てたいと。

生徒への接し方として意識していることはありますか?


「何事も自分で考えることが重要だ」と伝え、「どう思う?どうしたい?」と生徒本人の意思を問うように心がけています。たとえば厳しい校則があるとき、「そういうものだ」と盲目的に従うのではなく、「なぜその校則があるのか。本当に必要なのか」と、ちょっと面倒だと思われても問いかけるようにしています。


また、『13歳のハローワーク』の職業一覧ポスターを教室に貼り、事あるごとに生徒が自分の将来のことを考えるきっかけづくりを行っています。


そんな取り組みの成果が出たのか、この1年で生徒同士が意見を活発に交わすようになりました。生徒同士の学び合いや教え合いが生まれ、結果的に質問も増えた。何も言わなくても自主的に勉強する生徒の姿を見ると、バタバタだった1年が報われますね。

今後2~3年で取り組みたいことを教えてください。


2~3年というスパンでは難しいかもしれませんが、今通っている生徒が社会人になったら、彼らを集めて同窓会を開きたいと思っているんです。普通の学習塾は卒業してしまえばそれでおしまいですが、この塾でのつながりをずっと維持できたら嬉しいなと。当塾の卒業生の同窓会がきっかけで、また新しいビジネスが生まれたらすごく素敵じゃないですか。


また、卒業生が講師として戻ってきてくれて、そのときにいる生徒に自分の経験を話してもらう循環も作っていきたいです。そうやって教え子のつながりを強く大きくして、最終的には教え子に囲まれて死ねたら幸せだな〜と思っています(笑)。