岡本 雄太郎(おかもと ゆうたろう)


1991年生まれ。出版大手インプレスグループの株式会社ICE勤務。電子書籍レーベル『impress QuickBooks』の編集部に所属し、書籍の企画立案から著者の選定、制作進行・プロモーションなどを一気通貫で行う。直近の担当書籍は『なぜ女はこんなことで怒るのか ~不機嫌な彼女をなだめる10の掟~』『なぜオートミールは海外セレブやアスリートに愛されるのか ~ダイエットや筋トレに効くスーパーフード~ 簡単レシピ付き


身の回りの悩みをテーマに書籍化する

お仕事内容について教えてください。


電子書籍の編集者をしています。私の所属する『impress QuickBooks』はデジタルファーストの書籍に特化したレーベルです。私は編集担当として、どんなテーマで本を出すか? 誰に書いてもらうか? どこでどうやって売るか? を考え、プロジェクトの進行を管理する仕事を行っています。


『impress QuickBooks』の特徴は、単に紙の書籍を電子化するのではなく、始めから電子書籍としての出版を前提にしている点です。そのため、本の中身やその作り方において、紙の書籍とはいくつかの違いがあります。


デジタルファーストの書籍と紙の書籍との最も大きな違いは、ボリュームです。ある程度の厚みが求められる紙の書籍に比べ、電子書籍はスマホや専用端末で気軽に読まれることを想定しています。具体的には、往復の通勤2時間で読み終わる分量が目安です。紙の本よりもライトに読めるけれども、内容は十分に深い。そんな最適なバランスを日々追求しています。


また、制作プロセスも紙の書籍と比べてスピーディーに進みます。ボリュームが少ない分、取材時間が短く済むこと、印刷物ではないのでゲラ刷りや色校正といった作業がないことが大きな要因です。

電子書籍を作っていくプロセスについてより詳しく教えていただけますか。


書籍作りのすべては、企画会議から始まります。私も「次の企画、何にしよう」と日夜考えています。


「これだ!」と思えるアイデアを出すために私が実践している方法があります。それは、「自分や身の回りの人が悩んでいるテーマを本にすること」こと。たとえば「オートミールを食べ始めたんだけど、これが不味いんだよね」という友人の声をきっかけに作ったのがこの本。『なぜオートミールは海外セレブやアスリートに愛されるのか ~ダイエットや筋トレに効くスーパーフード~ 簡単レシピ付き』- 気軽においしく食べてもらうために、簡単なレシピも付けました。


企画が決まったら、次は著者選びです。本には著者の思いや個性が色濃く出ますから「誰に書いてもらうか」は書籍作りにおいて最も大事な部分と言っても過言ではありません。決めたテーマについて書くのにもっともふさわしい著者を探し、出版オファーをしていきます。


書籍というと、とてつもなく高名な方が書くものというイメージがあるかと思いますが、決してそんなことはありません。むしろ、突き詰めた専門性や個性を実は持っているのに、「私なんて...」と遠慮してまだ世に知られていない著者を発掘することは、コスト面でハードルの低い電子書籍が担うべき重要な役割だと思っています。


販売においても、電子書籍は独特です。紙の書籍と違い、電子書籍はただ置いておけば売れるという仕組みにはなっていません。紙の本が置かれている書店には、最初から本を買う意欲の高い方が来るため、極端に言えば本を置いておくだけでも買ってもらえるんです。この点は紙の本の流通における大きな強みですね。


一方で電子書籍の場合は、人の目に触れる機会を自分から作っていく必要があります。電子書籍の競合をあえて挙げるとすれば、YoutubeやLINE、Netflixといった大人気のネットコンテンツなわけです。だからこそ、電子書籍のプロモーションは非常に重要で、Webメディアとコラボしてプロモーションするなど、既存の枠に囚われない新しい売り方にも積極的にチャレンジできるところが醍醐味です。

一冊の本がきっかけで、編集者を志す

編集者になるまでの経緯について教えてください。もともと本がお好きだったんでしょうか?


それが真逆で、本はむしろ嫌いでした(笑)。大学生になるまで、本なんてまったく読まない人間でした。


そんな私が変わるきっかけになったのが、就活です。なかなか入りたい会社が見つからず、非常に苦労しました。周りにも相談したものの、なかなか方針が立たず、途方に暮れていたときに救いというか、答えを求めたのが本だったんです。


現状に対して解決策を求め、池袋のジュンク堂書店にふらっと入りました。新書コーナーで吸い寄せられるように手にとった一冊の本が、私の進路を大きく変えることになったんです。『やりがいのある仕事という幻想』(森博嗣・朝日新書)という本でした。


「はじめに」を立ち読みしただけで、雷が落ちたかのような衝撃を受けました。そこに書かれている一語一句が、就活で苦しむ自分に向けたメッセージに思えてなりませんでした。帰りの電車で降り損ねてしまうほど、食い入るように一気読み。こんなに取り憑かれたように本を読んだのは、初めての経験でした。


「こんなすごい人の考えやノウハウを、もっと多くの人に広めたい。本を作る仕事がしたい」逆説的ですが、この本を読むことで、私はやりがいを持って取り組めそうな仕事を初めて見出すことができたんです。


でも、気がつけばすでに卒業間近。焦りつつも、とにかく書籍編集に携われる仕事を転職サイトすら駆使して片っ端から探しました。最終的に2社から内定をいただき、ムック本を制作する小さな出版社に編集者として入社しました。目指していた書籍の編集者とは少し違いましたが、ここでしっかり修行を積んで、ゆくゆくはステップアップしようと前向きに捉えていました。


しかし、結果的に、新卒で入社した会社は2か月で退職してしまいます。当たり前のように徹夜が続く、覚悟していた以上に過酷な職場環境に体がついていかなかったことも大きいですが、それ以上に自分が制作する物自体に意義を感じられなかったんです。


一旦編集者の仕事から離れようと、フリーランスライターになりました。それでも、書籍編集者になりたいという思いは一貫して持っていて、1年ほどフリーとして活動した後、縁あって出版業界に復帰することにしました。出版大手KADOKAWAの新書レーベルのプロモーションの仕事です。編集者ではなかったものの、ついに念願の書籍を、それも私の人生を変えた新書を担当できることにワクワクしましたね。


ここでは、出版イベントの企画や広告出稿など書籍のプロモーションに関わる幅広い業務を担当することができました。その経験は、現在の仕事に直接活かすことができています。その後、ガンダム専門のWebニュースサイトの編集記者や、モノ情報メディアの編集長を務める中で身に付けた、SEOやWebマーケティングの知見も今存分に役立っており、振り返ってみたときにキャリアの点と点はつながるものだなと実感しています。


現在の仕事とのご縁は、ある日届いたオファーが直接のきっかけです。モノ情報メディアの編集長として、就任8か月で目標としていた1000万PVを達成した直後で、ちょうど次の目標を探している時期でした。


ついに巡ってきた、書籍編集者になる機会。半ば諦めかけていた自分の夢をもう一度追うときが来たと歓喜し、飛びつきました。転職して早1年になりますが、電子書籍という、出版業界の中でも未確立なジャンルを切り開いていく楽しさは、何にも代えがたいものがありますね。

電子書籍の編集者として、今後挑戦していきたいことはありますか?


2つ挑戦したいことがあります。


1つ目に、本との出会い方の選択肢を増やしたいと思っています。コンテンツがあふれる時代ではありますが、本という形態でなければ伝わらないこと、本ならではの良さは必ずあります。


電子書籍の良さは、場所の制約なしに、「読みたい」と思ったときにいつでもどこでも買えること。かつての私のようにあまり本を読まない人にでも、手に取りやすい方法で本を届けることにおいては、電子書籍にこそ可能性があると思っています。「かつては本嫌いだった編集者」である私の価値の発揮どころです。紙の書籍では開拓できていない、電子書籍ならではの読者との新しい接点を模索したいですね。


2つ目に、デジタルコンテンツに対してお金を払う習慣をもっと広めたいと思っています。当たり前のように無料で消費されるデジタルコンテンツも、背後には制作者が必ず存在しています。物理的な形がないので意識されづらいですが、電子書籍だって、著者や私のような編集者が、一冊一冊魂を込めて作っているんです。


コンテンツ制作者の存在を感じていただくために、最近は私自身が積極的に外部発信することを心がけています。これまで、編集者はどちらかと言えば縁の下の力持ち的存在でしたが、電子書籍の編集者として、そのような慣習にも囚われずにいようと思っています。ゆくゆくは「岡本が編集した本なら読んでみよう」という方を増やすことが私の野望です。