戸谷 大地(とたに だいち)


株式会社ビートソニック取締役。2007年に株式会社ドリコムに入社し、ターゲティング広告開発事業に従事。その後、株式会社ビートソニックに転職し、フィラメント電球を再現したLED電球『Siphon(サイフォン)』を中心とした照明事業を立ち上げる。


カー用品メーカーがLED電球を開発!?無謀に見えたチャレンジ

現在のお仕事内容について教えてください。


株式会社ビートソニックの取締役を務めています。


弊社は、カーオーディオのメーカーとして、1993年に私の父が創業しました。2009年に私も社員として入社し、現在はLED電球事業を推進するかたわら、父から経営を引き継いでいるところです。

新卒でビートソニックに入社されたのでしょうか?


いえ、大学卒業後すぐにビートソニックに入社したわけではありません。ソーシャルゲームやインターネット広告を手掛けるITベンチャーの株式会社ドリコムに入社しました。


東京の大学に通っていたこともあり、就活当時は今以上に大企業の人気が根強く、初めは私も日本を代表するメーカーや広告代理店などを受けていました。しかし、どこの面接に行ってもしっくりこなかったんです。安定した会社員生活を手に入れるよりも、できるだけ早くスキルを伸ばしたかったからです。「どんな環境に身を置けば20代のうちにスキルを最大化できるだろう?」と考えたときに、ベンチャー企業が合っているのではないかと思い、選考を受けてみることにしました。その中の1つがドリコムです。


当時のドリコムは上場したばかりでした。面接を受けに行くとすごく活気付いた雰囲気で、まるで学園祭前夜のよう。会社の規模が小さく、社長の下で責任ある仕事ができる環境にも惹かれ、私はすぐに入社を決めました。


入社後は新規事業であるターゲティング広告開発部門に配属され、クライアントへの営業を担当することに。新技術を用いた広告手法だったので、仕事は非常にエキサイティングでしたし、Webマーケティングのいろはを学ぶことができました。しかし、朝早くから夜遅くまで働き詰めで、終電で帰れることも稀な日々。30代40代になっても同じ生活をしている自分の姿を想像できませんでした。


就活当初は「20代のうちに自分のスキルを最大化したい」と考えていましたが、30歳を間近にして、「急成長を目指す会社でなくても、20代に培ったスキルを活かしてアイデアを形にするような仕事をしたい。ビートソニックならそれが実現できるんじゃないか?」という考えに変わっていったんです。27歳のときに、ドリコムを離れビートソニックに入社しました。

戸谷さんはビートソニックに入社後、LED電球事業を立ち上げていますね。もともと取り扱っていたカー用品とは全く異なる事業です。LED電球に着目した理由について詳しく聞かせてください。


東日本大震災をきっかけとした消費者の省エネ意識の高まりと、LED市場の拡大が重なったことが大きな理由です。


ビートソニックではカーオーディオなどを取り扱っているため、海外の家電見本市展示会に毎年視察に行っていました。展示会ではありとあらゆる電化製品が並んでいたんですが、2011年頃からLED電球の展示が如実に多くなっていったんです。


LED電球は白熱電球よりも単純な電子部品の組み合わせでできるので、小さな町工場でも比較的簡単に生産することができます。大企業はすでに家庭・オフィス向けLED電球を生産していましたが、中小企業でLED電球市場に参入している企業はまだ多くありませんでした。だったら、弊社のような小さな会社でも、ユニークな製品を作ればヒットするんじゃないかという考えに至りました。


どんな製品を作るべきか模索していたときに、よくある半透明のプラスチック製のLED電球は、インテリアを重視するおしゃれなカフェや雑貨屋の照明には使われていないということに気づきました。そこで、従来のLED電球とは一線を画す、フィラメント電球を再現した美しいLED電球『Siphon(サイフォン)』を開発しようと思ったんです。

いままで取り組んだことのない事業で開発に踏み切るのは不安ではなかったですか?


ブランドも販売チャネルも持っていないゼロからのスタートで、もちろん不安はありました。思いきって社内で提案したところ、スタッフも「本当に大丈夫?」と懐疑的。しかし諦めきれなかった私は、当時の日本ではまだマイナーだったクラウドファンディングでニーズを検証することにしました。


目標金額は150万円。「ダサいLEDは終わりにしよう!」と銘打ち、クラウドファンディングを公開しました。結果的に、今までのLED電球のイメージを覆す『Siphon』は大きな反響を呼び、支援金額はなんと1500万円以上!目標を大幅に達成することができたんです。しかもその金額は、国内のプロダクト系クラウドファンディングにおける過去最高記録になりました。


クラウドファンディングが成功すると、新聞やテレビ、雑誌からもたくさん取り上げていただくようになり『Siphon』の知名度は一気に上がりました。展示会で我が子のような製品の前に人だかりができているのを目にした瞬間の喜びは、いまでも鮮明に覚えています。


ビートソニックに入社して初めてものづくりに携わり、慣れない環境で私はしばらくくすぶっていました。その時期を乗り越えてここまで大きな成果を出せたからこそ、とても感慨深かったですね。さらに、クラウドファンディングという手法で製品を広めることができ、ドリコムで培ったWebマーケティングのスキルが大いに役立ったことが何よりも嬉しかったです。

中小企業へのネガティブなイメージを刷新したい

現在のお仕事を通じて、どんなことを実現したいですか?


会社として、私個人として、それぞれ実現したいことがあります。


会社としては、ものづくりとWebマーケティングがうまく融合した『Siphon』のような事例を作り続け、ものづくり業界の発展に寄与したいです。「地方の小さな中小企業」、だけど「生産からマーケティング、販売まですべてを担うクリエイティブカンパニー」。そんな会社を目指して、新しい事業にどんどん挑戦していきたいと考えています。


そのため、現在は広告代理店を介さずに消費者に直接製品を認知してもらうことにチャレンジしています。たとえば製品のYoutube動画を制作したり、SNSで発信したり。できそうなことはとりあえずやってみるの精神で取り組んでいます。


そして、私個人としてのミッションは、私のような「中小企業の後継ぎ」という働き方を発信することで若い人たちのキャリア選択の幅を広げることです。


中小企業に勤めることや家業を継ぐことに対して、若い人たちは「保守的」というネガティブなイメージを持つかもしれません。しかし、安定した売上基盤があるということは、資金のことを気にせずチャレンジできる環境ということでもあります。たとえば弊社は年間1000万円程度であれば新規事業に投資できますし、イチから起業するよりもむしろ新しいことに挑戦するには良い環境なんですよね。


今は、個人がブランドになる時代。その人が「どんな会社に勤めているのか」よりも「何をやっているのか」の方が重視されてきていると感じます。だからこそ、自分のやりたいことにチャレンジしやすい環境で夢を実現できる人を増やしていきたい。そのために、「中小企業で自分のやりたいことを実現するという方法もあるんだよ」ということを伝えていきたいですね。