古川 遼介(ふるかわ りょうすけ)


株式会社ジェネシーズ代表。飲食店の経営やコンサルティングを手掛けるかたわら、こだわりの食メディア『逸品グルメ』を運営。


いいものを作っている生産者が報われるために

現在のお仕事内容について教えてください。


こだわりの食メディア『逸品グルメ』の運営を通じて、生産者と飲食店・消費者の架け橋となるべく活動しています。


数多くある食メディアの中でも『逸品グルメ』の最大の特長は「食材」にフォーカスしていることです。単に飲食店をレポートするだけではなく、逸品食材の産地や生産者のストーリーを第一に取り上げます。同時に、その食材を使った料理にありつける飲食店や購入できる場所を紹介することで、生産者と飲食店双方のブランディングにつなげたいと考えています。


たとえば「枝幸のホタテ」をご存知でしょうか? 北海道の稚内にほど近い枝幸郡で獲れる、北海道民なら知らぬ者はいないブランドホタテです。ブリっとした身の締まり具合や甘みは紛れもなく日本一ですが、北海道のホタテとひとくくりにされ、残念ながら東京ではほとんど知られていません。そんな逸品ホタテを使った浜焼きを東京で食べられるお店があるとしたら......。行ってみたくなりませんか?


食材のストーリーも、料理の重要な味付けの一つです。どこで、どんな人によって、どんなことにこだわって作られた食材なのかを知っているだけで、目の前の料理は何倍にもおいしくなる。おいしいものを食べられる消費者も、その食材の生産者も、その食材を使った料理を提供する飲食店も、まさに三方良しのメディアを目指しています。

とても素敵なメディアですね。どのような理由で『逸品グルメ』を始めたのでしょうか?


こだわればこだわるほど生産者が損してしまう。そんな負の構造を打開したいという思いで始めました。いいものを作っている生産者が報われない状態が続けば、いいものが市場から淘汰され、最終的には消費者につけが回ってきてしまいます。


「枝幸のホタテ」の例でも、日本のホタテでも北海道のホタテでもなく “枝幸” のホタテであることを適切にブランディングすることで、本来の固有性や希少性を価値として届けられると思うんです。

奥深い食材の世界をもっと知ってもらいたい

食材に関心を持った経緯について伺えますか?


もともと食べることが好きで、学生時代は一貫して焼肉店やバーなどの飲食店でアルバイトしていました。卒業後は食から離れ、コンサルティング企業に就職しましたが、2年ほど働いて独立。食に関わる事業をやろうと思い、地元、高田馬場で鹿島アントラーズのサポーターをターゲットにしたスポーツバーを開きました。アルバイトで身につけた料理やお酒作りの腕前を存分に発揮できましたね。


スポーツバーを皮切りに、吉祥寺や神保町にも飲食店をオープンし、4店舗を経営するに至りました。一方でこの頃は、もちろんおいしい料理は大好きでしたが、食材に対して今ほど強いこだわりがあったわけではありませんでした。


結果的に転機になったのは、癌を患ったことです。4店舗目の焼肉店が繁盛し、大忙しの毎日を過ごしていたあるとき、食べ物が喉を通らないほど体調を崩し、病院で精密検査を受けました。


「ステージ4の癌です」と医者に突然宣告されたその日から、闘病生活が始まりました。繁盛店は閉店を余儀なくされ、私の積み上げてきたものをここで一旦リセットすることになってしまったんです。

体重は20kg落ち、1人では何もできなくなるほど衰弱していきました。ついには覚悟を決め、自分のお別れ会を開催するほどでした(笑)。


しかし、幸いにも癌は快方に向かい、約1年の闘病生活を経て社会復帰。新たなスタートの前に、一度立ち止まって、自分の本当にやりたいことは何かを考えたとき、頭に浮かんだのはやはり食に関することだったんです。


そこでまずは、ホタテの海外輸出を手掛けている友人の手伝いを始めることに。その仕事を通じて「食材」というものの魅力と奥深さを知ると同時に、先ほど触れた、いいものを作れば作るほど損をしてしまう生産者の実状を目にすることになります。飲食店を経営していたのにも関わらず、お客様に提供している食材がここまでたどり着いた過程や生産者の苦悩をほとんど知らなかったことを実感しました。


それにしても、知れば知るほど食材は、奥深い。もともと、こだわり始めたら止まらない性格です。私の場合は、その対象がたまたま食材だった。いろいろな食材について研究したり生産者を訪ねたりする中で『逸品グルメ』は形作られていきました。奥深い食材の世界をもっと多くの人に知ってもらいたい。私の原点は、そんな純粋な気持ちなんです。


今後挑戦していきたいことは何ですか?


現在はほぼ1人でメディアを運営している状態なので、仲間を増やし、メディアの認知度を高めることで、生産者や飲食店、消費者にさらなる価値を届けたいと考えています。


最近は、飲食店のみならず、家庭でも逸品食材を味わっていただきたいという思いから、生産者のインタビューや食材の特徴、家庭でもできる調理方法をYouTubeチャンネルで発信し始めました。このような新しい取り組みにも積極的にチャレンジしていきたいですね。


また、食というテーマから始めましたが、生産者のこだわりを伝えることが求められている業界は他にもあると思っています。伝統工芸品といった他分野への展開も長期的には視野に入れています。究極は「日本をもっと元気にしたい」という思いで走り続けたいと思っています。