黒田 悠介(くろだ ゆうすけ)


1985年生まれ。東京大学文学部にて心理学を専攻。ベンチャー企業勤務や起業、キャリアカウンセラーを経て、フリーランスに。現在は「議論で新結合を生み出す」というビジョンのもと、新しい職業とコミュニティを生み出す活動に取り組む。ディスカッションパートナーを生業とし、スタートアップや大企業の新規事業立ち上げを支援。議論を通してつながる会員制コミュニティ「議論メシ」を主宰する他、日本最大級のフリーランスコミュニティ「FreelanceNow」発起人も務める。


フリーランスになりたかったわけじゃない!?

会社勤めも起業も経験された後、フリーランスに転向した経緯について教えてください。


実は、必ずしも自ら進んでフリーランスとして生きていきたいと思ってなったわけではありません。ただ、実験してみたかったんです。


はい。フリーランスとして独立する前は、キャリアカウンセラーとして年間1000人以上の学生の就活カウンセリングを行っていました。大手や有名企業だけを見るのではなく、ベンチャー企業で働くという選択肢を学生に対して提案することで、働き方の多様性を高めたいという想いで取り組んでいました。


そんなあるとき、学生から「フリーランスってどうですかね」と相談を受けたんです。ベンチャー企業の社員や役員、会社経営など、様々なフィールドで働いた経験のある私も、フリーランスの世界については門外漢で、その学生に対して納得感のある回答ができませんでした。フリーランスという自分のまったく知らない働き方が、学生の選択肢の1つになりつつあることに気付いた瞬間です。


巷では「フリーランスは自由でいい」という声もあれば「1人で食べていくのは大変だ」という声までさまざまですが、いずれもポジショントークの域を出ません。実体験として知らない選択肢を人に提案するのはイケてないなと思い、キャリアカウンセラーの完全体を目指して、自ら実験台になったわけです。当時は結婚したばかりで当然勇気のいる決断ではありましたが、最終的には好奇心一本で舵を切りましたね。


特に実験してみたかったのは、エンジニアやデザイナーと異なり納品物が明確ではない文系職種のフリーランスが成立するのかということでした。そこで、もともと議論が好きだったこともあり「ディスカッションパートナー」という肩書でフリーランスとしての活動を始めました。同時に、「文系フリーランスって食べていけるの?」というメディアを立ち上げ「フリーランス研究家」として情報発信を積極的に行いました。

働き方の多様性を高めるための実験だったわけですね。働き方というテーマに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。


働き方というテーマに出会ったのは、自分で会社を経営していたときのことです。


26のときに、マーケティング支援の会社を立ち上げました。幸い事業は軌道に乗り、新規事業を立ち上げるために社員を追加採用することにしました。ところが、全然採用できない。ベンチャー企業に入りたがる人がなかなかいないんです。確かに、私の大学時代の友人を見渡しても、官公庁や有名企業へ就職したケースがほとんどで、新卒でベンチャー企業に入社した私は異例の存在でした。


どうしてこうなってしまうのか。学生が手にする情報が圧倒的に不足しているんです。就活は長いキャリアにおいて点でしかないのに、どうしても近視眼的になってしまって。巷の就活ランキングで上位の有名大手企業ばかりに目が行ってしまうのが実情。


「ベンチャー企業こそがこれからの世の中を作っていくのに、そこに優秀な人が入ってこない。これは自分の会社だけの問題ではなく、社会課題だ」そんなことを考えていた矢先に、人生を変える出会いを果たします。スローガン株式会社代表取締役社長の伊藤豊さん。彼は日本経済の縮小に抗う手段の仮説として「才能の最適配置」に取り組んでいる方で、同社でベンチャー企業の採用支援事業を行っていました。

企業とコミュニティと個人をなだらかにつなぐ

フリーランスの実験から始まり、現在コミュニティ運営に注力されているのはなぜですか?


最初は、ディスカッションパートナーという職業を世に定着させたいという動機でコミュニティを立ち上げました。クラウドソーシングサイトを見ても、「エンジニア」のカテゴリはあっても「ディスカッションパートナー」はまだありません。自分1人では難しくても、コミュニティを作って、100人くらいがディスカッションパートナーを名乗り始めたら実現できるかもしれないという気概で取り組んでいます。


一方、コミュニティを運営するうちに、フリーランスとコミュニティは今後切っても切れない関係になるのではないかという仮説を抱きました。フリーランスは「すべてが自己責任」という、自由な反面とてもタフな生き方です。「個の時代」と言われ、フリーランスが少しずつ増えている今だからこそ、「1人では大変だからみんなで協力しようよ」と、ギルド(注:中世ヨーロッパの諸都市で商工業者が結成した職業別組合)のようなコミュニティに再び注目が集まり始めているように感じました。そこで現在は、個として働く選択肢と、組織で働く選択肢の中間解としてコミュニティベースの働き方を実験してみようという想いで複数のコミュニティを運営しています。

コミュニティというテーマで、今後どのようなことに取り組んでいきたいですか?


取り組み方の1つとして、コミュニティポートフォリオの構築について特に興味があります。家庭や職場もコミュニティの1つだと捉えると、今後は1人の人間が3つ以上のコミュニティに所属することが当たり前になると考えています。そのとき、それぞれのコミュニティに対してどのような配分で時間を使うのか。つまりどのようなポートフォリオを構築するのかということに注目しています。たとえばコミュニティカウンセラーといった立場で、コミュニティポートフォリオの構築に挑戦する人を支援するのは選択肢の1つです。


また、コミュニティと企業との関係性もホットなトピックです。他社を巻き込んだ企業のオープンイノベーションはいくつか成功事例が出てきましたが、今後は企業とコミュニティのコラボレーションも活発になるはずです。企業対企業では、利害関係がどうしても協業の枷になることがありますが、企業対個人あるいは対コミュニティではそういったしがらみが基本的にはありません。企業のオープンイノベーションのパートナーとして、法人ではなく信頼できる個人やコミュニティが選ばれることは十分に考えられるだろうなと。企業とコミュニティと個人。この3者をなだらかにつなぐ方法を模索すべく、これからもいろいろ実験していきたいですね。